これから塾開業を目指すには、今まで以上にたくさんの情報を知っておかなければなりません。
それは、塾業界はここ数年で大きく状況が変化したからです。
一講師として成功していても、それだけで開業し、経営がうまくいく時代ではなくなりました。
今回は、塾の経営が難しいと言われる理由や、成功させるためのポイント、経営が安定しやすい指導形態についてご紹介します。
これから開業を目指す人が知っておきたいことをお伝えするので、ぜひ参考にしてください。
塾の経営が難しいと言われる理由
現在の塾経営は非常に難しいと言われています。
難しいと言われる理由は以下の3つです。
- 参入障壁が低く、競争が激しい。
- 少子化が進み、先行きが不安。
- 入試の変化
難しいと言われる理由をきちんと把握し、対処法を考えておきましょう。
参入障壁が低く競争が激しい
学習塾は他業界と比べて参入障壁が低い業界です。
開業資金も安く済み、不要な在庫を抱える必要もありません。
資格も必要なく、先生が1人いれば、複数の生徒を教えることができます。
多くの塾では次月の授業料が前払いで現金商売ですし、余程のことがない限り退塾しませんので
毎月売上が安定します。
また、仕入れがほとんどないですから、キャッシュフローが安定しやすいのです。
従って、塾業界へ新規参入することはそれほど難しくありません。
総務省「経済センサス活動調査」によれば、新設される学習塾事業所の数は、一貫して増え続けています。
2012年 4,285事業所
2016年 8,274事業所
2021年 15,457事業所
一方、経営が存続できた事業所の数は、年々減少しています。
2012年 46,391事業所
2016年 46,212事業所
2021年 37,552事業所
新規参入が容易な分、学習塾の事業所数は増える傾向にありますが、存続できる事業所数は減ってきているのです。
大手のFC塾を中心に、近くに新しい塾ができたかと思うと、以前からあった塾が廃業していく、そんな厳しい業界なのです。
少子化が進み、先行きが不安視されている。
現在の日本は、少子化が猛スピードで進行しています。
2022年に生まれた子どもの数は、77万747人と初めて80万人を割り込み、1899年の統計開始以来最低数を記録しています。
各学校の在籍生徒数も軒並み減少しています。下のグラフは、文科省「学校基本調査」から作成した学校別の在籍生徒数推移です。
2022年度の小学校の在籍者数は615万1千人で、前年度より7万2千人減少し、過去最少となっています。
中学校の在籍者数は320万5千人で、前年度より2万4千人減少し、過去最少となっています。
多くの塾が小中学生を対象とした学習塾であることを考えれば、少子化により、対象となる生徒数が年々激減しているのは、今後の先行きに大きく影響してくるでしょう。
塾を新規開業する事業所は増えているのですから、減少していくパイの奪い合いになっているのが現在の塾業界なのです。
入試の変化
学習塾の使命は、生徒を志望校に合格させることです。
模試の合格判定基準に一喜一憂しながら、入試から逆算したスケジュールで少しでも偏差値が上がるようコツコツ学習していくのが受験勉強でした。
しかし今は少子化に加え、高校入試競争倍率が1倍を切っている地域が増え、高望みしなければ誰でも高校に入学できる時代になりました。
大学入試は、科目の点数を競い合う一般入試の割合は半分以下に減り、多くは指定校推薦や総合型選抜入試が拡大しています。つまり、一発勝負の入試から、日頃の勉強態度と自己アピールで大学に入学できる時代なのです。
「競争」があるから塾の必要性が出てくるのですが、競争することが減っていけば、塾の存在価値が揺らいでいきます。中学入試や中高一貫入試、地域トップ高入試、人気のある難関大学入試といった、競争がまだ残っている分野に存在価値を見出した方が生き残る確率が増えるでしょう。
また、入試問題そのものも変化しています。
学んだ知識量が問われることが減り、いわゆる「思考力・判断力・表現力」といった、答えのない問題に対応しなければならない入試問題が増えています。
ほとんどの科目で問題が長文化しているのが特徴です。その理由は、「あなたならどう考えますか?」という生徒の主体性が問われるようになってきているからです。
主体性を問うために場面設定が必要になり、複数資料を読み込ませる必要があり、様々な意見を盛り込む必要が出てくるので長文化していきます。
そのような入試では、基礎知識の定着を「前提」にしたうえで思考力が問われますから、塾でも知識を定着する時期はできるだけ早く終わらせ、入試で差がつく思考力問題に対応する時間を多くとらなければなりません。
基礎知識が定着していない生徒への対応で手一杯の塾は、唯一「競争」が残る思考力系問題に対応できなくなりますから、入塾する生徒の選抜、指導方法の効率化、講師レベルの強化、が求めれてくるのです。
難しいと言われる塾の経営を成功させるポイント
現在の塾業界は熾烈を極める時代ですが、それでも経営を成功させるポイントはあります。
- 塾のポジショニング・コンセプトを明確化
- 経営者に必要な知識を学ぶ
- サービスの質を徹底的に高める
ここでは、経営者として塾経営を成功させるポイントとして、上記3つについてご紹介します。
塾のポジショニング・コンセプトを明確にする
自塾のポジショニング、コンセプトの明確化は企業活動にとって重要です。
塾の集客の源泉は「口コミ」です。
地域の人に「どんな塾か?」が伝わることが大切です。
ママ友同士の会話で「どんな塾なの?」と話題になった時、「厳しい塾だから自分で勉強できる子向きだと思うよ」とか「○○高校目指す塾らしいよ」とか、塾の特徴が明確に伝わっていなければいけません。
そのため、塾の「理念」はとても重要になります。
塾現場の業務は、塾の理念から逆算されていた方が市場への訴求力が増します。
例えば、「自分で勉強できる子に」という理念であれば、現場で重視する指導は参考書の調べ方であり、ノートのとり方であり、計画の立て方にこだわらなければなりません。
そこに塾の先生が妥協を許さないまでに徹底的にこだわっていれば、保護者にも「自分で勉強できるようにする塾」と伝わります。
逆に、理念が絵に描いた餅になると、地域での評判が定まりません。「どんな塾?」と聞かれても特徴がないので勧めようがなく、口コミになりにくいのです。
このように、塾のコンセプトを定め、理念を重視する姿勢は、集客の源泉につながりますので何よりも重要です。
マーケティング・営業・財務など経営者に必要な知識を学ぶ
経営者は企業を守る最後の砦です。
様々な決定を行う最高責任者なので、プレッシャーも相当なものになるでしょう。
そのプレッシャーに打ち勝つためには、経営に必要な知識が必要です。
コンセプトや、塾のシステムはもちろん、
- マーケティング
- 営業
- 財務
- 人事
など、経営者に必要な知識はたくさんあります。
これらを1から学び、自分の力としていくのです。
講師は現場で、日々たくさん学び、力をつけています。
そのステージを作るのが、経営者の務めです。
ある老舗の塾経営者が言っていました。
「塾が継続できるかどうかは、塾長がどれだけ早く現場を離れられるかどうかだよね」
経営者は講師と同じポジションにいてはならず、あくまで経営者としてのスキルを磨いていくことを目標にすべきです。そのために時間を割かなければいけません。
努力して学んだ知識や経験は、かならずピンチを救ってくれます。
逆に知識も経験もなければ、突然訪れるピンチへの対応方法が見つからないものです。
授業に没頭するあまり、地域の変化や自社の財務状況、業界の動向に疎くなってしまっては、守るべきものも守れません。
できれば、塾経営者同士の勉強会やセミナーに積極的に参加しましょう。
生徒を集める経営者の特徴の一つに、「情報を得ることにお金を使う」というものがあります。
良いセミナーがあっても交通費や宿泊費がもったいない、時間がない、面倒くさい、という発想を捨て、情報を得ることは投資と考え、仕事の優先順位を上げるのです。その情報を得るために講師の代行を頼むぐらいです。
塾経営にとっては、授業をする講師はいくらでもいますが、情報を得たり社外人脈を増やす仕事は、経営者にしかできません。情報の取捨選択、判断が必要だからです。
本で得た知識だけでなく、生きた情報や知恵、知見を得ることがいざという時に頼りになります。
困った時の相談相手の存在も重要です。
職員の幸せ、生徒の喜び、そして自らの生活を守るためにも、一流の経営者を目指して、前向きにたくさんのことを学ぶ姿勢が経営者には求められるのです。
サービスの質を徹底的に高める
塾=教育機関と考える方もいらっしゃいますが、塾は立派なサービス業です。
しかしながら、他業界と比べると塾業界の顧客満足度は低いと言われています。
なぜなら、塾業界は「お金を払う人とサービスを受ける人が違う」という珍しい業界だからです。
サービスを受ける「生徒」には、どの塾も手厚くサービスします。
しかし、お金を払う「保護者」にどんなサービスをしているかと言えば、なかなか出てきません。
このことが、顧客満足度が高まらない理由につながります。
サービスの質を徹底的に高めて他塾との差別化を図るのであれば、「保護者へのサービス」を高めることを考えなければなりません。
サービスを受ける生徒には、どの塾も一生懸命に授業や指導に全力を尽くしてますので、差別化するのは容易ではありません。
プロでも違いを見出すのが難しい程ですから、保護者が授業の違いを見出すのは至難の業です。
保護者に子どもの様子を定期的にわかりやすく報告する、子どもの成長エピソードを具体的に語る、詳細な入試情報の提供、定期的な保護者会の開催等、保護者にとって何がうれしいのかを徹底的に考えるべきです。
子供たちを可愛がる姿勢は、満足度の向上と共に、地域の声となります。
型にはまらず、いいことはすべてやるくらいのつもりで、徹底した品質向上を目指しましょう。
まずは個別指導からスタートするのが無難
塾の形態には様々なものがありますが、安定的に経営を進めるなら個別指導が無難です。
個別指導には、次の2つのメリットがあります。
- 収益が安定しやすい
- 一人に注力できる
それでも、利益率を求めるなら、個別よりも集団の方が向いているかもしれません。
しかし、集団指導は大手塾が非常に強いため、集団をやるなら徹底的な差別化が必要となります。
個別指導は収益が安定しやすい
個別指導は生徒のニーズが高いため、安定的に生徒数を確保しやすいです。
特に開業して間もないと、生徒数も少ないため、「しっかり見てくれる塾がいい」という保護者のニーズに応えることができます。
また、1コマ当たりの単価が個別指導は高いため、生徒数が少なくても、ある程度の収益を得られる点もメリットです。
通常授業でも、収益に差は生まれますが、特に大きくなるのは講習会と受験対策講座です。
個別指導塾は、家庭ごとにオプション講座を増やせますので、講習会ともなると何十コマと追加受講してくれる可能性があります。
やりすぎると「営業色が強い」「あの塾は高い」と悪評が広がってしまいますが、開業1年目から収益が安定しやすいのが個別指導の特徴です。
一人の指導に注力できる
個別指導の最も魅力的な点は、1人の生徒を徹底的に見られることです。
講師側も生徒側も、保護者の立場でもこれ以上の待遇はありません。
数十名をまとめて教える集団指導塾では、こんな不満の声が出てきます。
- よく見てくれない
- わからないのにどんどん進む
しかし、個別指導では、その子のペースに合わせた指導が可能な為、このような不満はあまり出てきません。
保護者は「どれぐらい我が子を見てくれているか」に最大の関心があります。
個別指導では特に、問題を解く過程まで観察し、保護者に詳細な子どもの状態を伝えられることがメリットとなります。
どの塾も定期的に保護者に授業報告書を送付しています。
その報告書の内容が「よく宿題をやっている」とか「部活で疲れて集中できない様子」といった大雑把なものでは集団指導塾と差別化できません。
「なぜこの問題を間違うのか観察していたら、問題がわからないのではなく、ノートのとり方にこのような問題があった」「実は問題文の意味がわかっていないことが多かったので、問題文を声を出して読ませることから始めた」といった、誤答の傾向や癖、考え方まで詳細に把握して報告しなければなりません。
成績が下がっても、「これほど我が子を見てくれる塾はない」と退塾せずに通塾してもらえるケースは多いのです。
生徒個人に注力できる個別指導のメリットを、経営者の目が届く少人数のうちに活かしていくことが重要です。
集団指導塾を始めるなら徹底的な差別化を
個別指導にメリットが大きいのは理解していても、集団指導にこだわりたい方もいらっしゃるでしょう。
生徒が互いに刺激し合って成長していく姿。
クラスが団結し、1つのゴールに向かって頑張る風景。
大声で笑い、やるときにはやるメリハリ、引き締まった空気。
集団指導塾の魅力ってたくさんありますよね。
先生の指導力や授業力だけが集団指導塾を特徴づけるのではありません。
「生徒同士が影響し合う」ことこそが、集団指導塾の一番の特徴です。
怠けたくなる時に自習室に入ると、身動き一つせずに長時間集中して勉強している仲間がいる。
部活との両立に悩んでいる時に、夜遅くまで部活しているのに翌日さらっと宿題を提出している仲間がいる。
いつも成績が一番だった先輩が高校生になると、中学の時と違って必死に勉強している。
そんな仲間や先輩と一緒に勉強できる環境が集団指導塾の一番のメリットです。
特に、学力の高い子が集まる集団指導塾ほど、このメリットを最大に活かして他塾と差別化することができます。
保護者にとっては、集中力のある同学年の子に囲まれて刺激を受ける環境、我が子より高い偏差値の高校生が多く通っている環境は、お金では買えない特別な価値を感じます。
集団指導塾は、勉強する環境づくりに注力すべきです。
ただ集団授業をやるだけでは、大手塾に勝てません。
小さな個人塾で、集団指導を行っていても、地域で生き抜いている塾はたくさんあります。
大変だからこそ、知恵を振り絞って、徹底的な差別化を図った集団指導ができれば、十分勝算はあると言えるでしょう。
>>塾の指導・授業は変えるべき?スタイルを変更するメリットとデメリット
まとめ
塾業界は大きな変動の時期を迎えています。
参入障壁が低い、少子化、入試の多様化などの問題が大きな理由です。
まずはこれらをきちんと理解し、経営者として知識をつけていく必要があります。
知識だけでなく、多くの業界人と出会い、セミナーや勉強会に参加し、塾業界の人的ネットワークを築くことは、経営者にしかできません。
経営者にしかできない仕事に注力するためにも、できるだけ早く現場を離れられるよう、右腕人材の育成や、仕事の標準化、仕組み化を実現していきましょう。
厳しい状況だからこそ、乗り越えた時のリターンも大きいものです。いつの間にか、地域で生徒が集まる塾が自塾だけになる日が来るかもしれません。
経営を成功させるために、現状を受け入れ、適切なプランニングを立てるようにしましょう。
\ビットキャンパスの詳細はこちら/