変化を迫られる学習塾業界の動向

変化を求められる学習塾業界 学習塾と社会情勢

今、全国の学習塾経営者からは、問合せが減った、中3生が冬に入塾する、高単価の高校生コースが集まらない等、厳しい状況を伝える声が増えてきています。

中には、合格実績が過去最高であるにもかかわらず、問合せや入塾希望者が増えないと苦しんでいる塾もあります。

学習塾業界に何が起きているのでしょうか?

学習塾業界では今後、どのような方向性が見えてくるのでしょうか?

様々な観点からその点を探ってみたいと思います。

急激な少子化が今後の学習塾業界に及ぼす影響

少子化と言われ続けて長い時間が経ちますが、今後、少子化は急激に進んでいきます。

総務省の「日本の地域別将来推計人口」調査によれば、今後すべての都道府県で0~14歳人口が減少する予測になっています。2025年を100とした場合の指数を、都道府県別に表すと次のようになります。

少子化はずいぶん前から進んでいる感がありますが、2025年を基準としても、2045年にはさらに全国で2割から4割減少していく予測になっています。

1割程度しか減らない都道府県は、東京都と沖縄県のみとなっています。

子どもの数が急減する問題は、日本社会全体の問題ではありますが、学習塾業界にとっては、単にお客様の数が減る以上に、学習塾業界構造そのものを変えてしまうインパクトがあります。

もっとも考慮すべき課題は、「競争」が減っていくことにあります。

文部科学省が2023年に公表した「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究」によると、大学の選抜方法は、一般入試が43.3%、学校推薦型が26.9%、総合型選抜が16.8%となっており、一般入試の割合はすでに半分以下に減っています。

高校入試でも、学校の受け入れ定員数にあまり変化がなければ、子どもの数が減れば当然競争倍率も下がります。地方によっては、既に地元のトップ高校の入試競争倍率が1倍を切った地域もあります。

全国レベルの一発勝負でしのぎを削る入試形態は、全体の半分以下にすぎません。多数を占めつつあるのは、各学校内の狭い競争で枠を勝ち取る推薦形態です。

しかも、従来の地道な努力で獲得した教科知識ではなく、部活動の実績や人間性などをアピールする能力や思考力を発揮する形態です。

多くの学習塾にとって、一番の存在意義は「子どもが行きたい学校に合格させること」にあります。

そのため、競争に勝ち残ることができるよう、塾は各科目の学習内容理解に注力し、学習に向かうやる気を引き出し、志望校合格という子どもの夢実現に情熱を傾けてきました。

しかし、その「競争」が減り、科目学習内容以外の能力が問われるようになり、大学も全入時代が当たり前になると、そういった塾の存在意義が揺らいできます。

それでも「成績を上げる」というニーズが残っている限り、学校の成績を上げることに全力を注げば、保護者もそれを求めていますから、その点において学習塾の存在意義も残り続けるでしょう。

しかしその意義も、先生の嘆きとも言える現状を聞くにつれ、揺らごうとしています。

特に地方の学習塾経営者の方からよく聞こえてくるのは、地方と全国の学力レベル格差が広がっていることです。

学校の成績を上げることに全力を注ぎ、校内順位も250人中20位まで成績を上げることができても、全国模試では偏差値50になってしまう生徒や、学校の絶対評価で4.6や5に近い成績の生徒でも、偏差値が30の生徒も出てきています。

この状況はどのように考えたらいいのでしょうか?

一つの考え方として、地方だからレベルが低い、全国はレベルが高い、というよりも、学力の高い生徒を育てている家庭とそうでない家庭との格差が、日本全体に広がっているという見方があります。

少子化により競争が減り、そんなにがんばらなくても大学に行ける人が増えると、それに不安を覚える家庭が、少しでもレベルの高い高校や大学に進学できるよう、塾や習い事にお金を投資する姿が見えてきます。

次はその点を考えてみましょう。

広がる所得格差と子どもの教育への影響

コロナ禍を境に、家計に占める補習教育費の支出割合に変化が生じています。

総務省「家計調査」によると、学習塾費を含む補習教育費について、世帯年収別(二人以上の世帯)の一か月平均支出額が公表されています。

コロナ前の2019年と、コロナ後の2022年の支出額で比較すると、次のようになっています。

コロナ前の2019年とコロナ後の2022年を比較すると、世帯収入550万以下の層で軒並み支出が減少しています。

昨今の物価高も影響しているのかもしれませんが、中間層以下の層ではついに教育費も削らざるを得なくなったことがうかがえます。400万~550万の層では、2019年比20%~30%減少しています。

また、比較的高収入層である750万~800万層も26%減、800万~900万層も11%減となっており、冒頭に述べた高単価の高校生コースの苦戦にもつながっているように思えます。

一方、世帯収入1250万~1500万の層では、2019年比で60%も増え、1500万以上の富裕層では2019年比40%以上の増加となっています。

いずれにせよ、世帯収入550万の層を境に、教育費を子どもにかけられる世帯とそうでない世帯が、明確に2極化している傾向がうかがえます。

そしてこのことが、学力の2極化にもつながっていると言えるでしょう。

今後見えてくる学習塾業界の方向性① 幼児期~大学受験までの一貫教育体制

二極化していることを述べましたが、一つの方向性としては、高所得層を対象に、幼児期~大学受験まで、長期間子どもの成長を預かる一貫教育指導が挙げられます。

毎年多くの中3生が卒業してしまう塾は、引き続き在籍してもらうことで売上の安定化を望み、高校部の設置を検討します。しかし高所得層の家庭は高校から動いたりせず、幼少期から教育に投資します。

ある塾では、地元大学の付属小をターゲットに、図形や絵画、読書等を通して思考力や自学力を育成する指導をしています。4歳頃から入塾するのですが、中学部にも8割近くが継続し、最終的に映像授業のコースで大学受験まで子どもを預かっています。

幼少期から14年間、子どもを預かると塾長にとっては我が子同然です。保護者にとっても、いわば「育ての親」が塾長になるわけですから、テストの点数を上げるとか高校に合格させるとか、短期的な視点では長期間預けられません。

自分の人生を自分でデザインできるような、心と知性と思考力を育成する長期的な視点をしっかり保護者にアピールし、日本の社会情勢の変化や培うべき能力等について、常に保護者に情報発信していかなければいけません。

成績を上げるテクニックよりも、子どもの成長や個性を重視しながらしっかりとした「人生観」を塾が掲げることが重要になります。

想いや価値を共有できると保護者が信頼してくれた時に初めて、長期間子どもを預けてくれます。

その意味では、幼児期から大学受験までの一貫教育に向いている塾は、教室長や担当の先生がコロコロ変わる塾よりも、塾長がずっと現場を見ていられる規模の塾が向いているように思えます。

志望校合格を目標にするスタイルから、初期の子どもの人生まるごと預かるようなスタイルに、学習塾の役割が変わっていくでしょう。

共働き世帯が当たり前の世の中になると、家庭で親が子どもにかけられる時間や労力も限られてきます。

変化の激しい時代を生きる子どもを、戦国時代の「守役」のような、親に代わって幼少期から指導してくれる新たな先生像が求められるスタイルです。

高所得世帯をターゲットにする塾は、幼児期から大学受験まで、高単価で長期間子どもを預かる一貫教育に取り組み、塾の安定経営と発展を両立させていくことが可能になります。

今後見えてくる学習塾業界の方向性② 地元で就職するキャリア教育

入試競争倍率が1倍を切る少子化の時代を述べましたが、別の見方をすれば、どの学校にも通えるようになることで、子どもの進路人生の選択肢が多様化することを意味します。

昔であれば、学歴や通う学校によって、勤められる職業もある程度限られていました。

そのことが、親の願いでもある「少しでもいい学校に行って幸せになってほしい」という想いとリンクすると、塾の存在意義でもある成績を上げる、上位高合格を目指す、という方針にニーズが生まれます。

しかし今は、特に地方から聞こえてくるのは、学力はあっても経済的な理由から大都市の大学に通えない、地元の大学に入りたいというケースが増えています。地元でいいという保守的な傾向も伺えます。

少子化により、以前には合格することのできなかった進学校や学科にも通えるようになるでしょう。

地方自治体も人口増対策、少子化対策、産業創出対策等、なんとか若い人に地元に残ってもらえるよう様々な施策を打ち出していますし、むしろ若い人を支援することで地方産業を創出していきたいと願うようになっています。

つまり、地方であっても人生の選択肢が多様に生まれ、地元であるが故に明確な人生目標を持ちやすくなる可能性が高まっていると言えます。

例えば、台湾の半導体メーカー「TSMC」が熊本に工場を建設することが決まり、熊本では半導体に詳しい人材育成が急務になっています。

熊本高専は台湾の大学と提携して半導体人材育成に乗り出し、熊本大学工学部にも新たに「半導体デバイス工学課程」が設置されることになりました。県立高校の希望者にも宿泊型の半導体研修を始めています。

半導体に興味を持つ中高生に、地元のどの高校からどの大学の学科に行くのか、英語と中国語を身に着けるにはどこの学校に行ったらいいのか、日本語教育も盛んになるだろうから日本語教育ならどの学校に行けばいいのか等、多様な進路を指導する先生が必要になります。

一例に過ぎませんが、地元で就職することを前提に、どのような人生戦略を描いていくのかといったキャリア教育の中で、学習塾得意の受験指導ノウハウを活かしていく方向性が期待できます。

なぜなら、「地元に残ってほしい」と願う新たな親のニーズを満たすことができるからです。そこに「地元に残る戦略」が必要になります。

残念ながら、学校で進路指導が緻密に行われているかといえば、そうではないという声が全国から届きます。行きたい学校よりも安全に合格できるワンランク下の学校を勧める先生も多いと聞きます。

そのような中、地元の就職状況や職業ごとの平均年収、共働きと子育てを両立しやすい職業の選択肢、それを実現できる可能性の高い学校の選択、その学校への進路指導、受験指導、学習指導等を塾が担うことができれば、親は安心して子どもを預けられるでしょう。

今後の学習塾業界は、教育産業というより、キャリア構築データ産業とも言えます。

少子化が今後も続くことを前提にすれば、前述したように親のニーズも変わってきます。親のニーズが変わる時代には、新たな学習塾のニーズも生まれるチャンスと言えるでしょう。

まとめ

学習塾業界では少子化と言われて久しいですが、コロナ禍を境に、今後さらに急激な市場の変化が起きる可能性が高まっています。

急激な少子化は「競争」分野を減らし、競争に勝ち抜くための受験指導という塾の存在意義を揺るがし始めています。

一方、少子化で競争が減ってきたが故に、子ども達の人生の選択肢が増え、次に挙げるような学習塾の新たな役割が生まれようとしています。

・幼児期~大学受験までの一貫教育体制

・地元で就職するキャリア教育

もちろん、他にも考えられると思いますが、少子化を前提に新たなニーズが生まれることを考えていけば、「ピンチはチャンス」の言葉通り、ポジティブな戦略を描ける時代と言ってもいいかもしれません。

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