かつて学習塾業界は聖域と呼ばれ、世の中が不況にあっても、学習塾費を削る家庭は少なく、親心として子どもの未来への教育費用にはお金をかける時代がありました。
事実、2022年までは多少の浮き沈みがあっても、業界全体の売上額は前年比プラスの傾向にありました。
しかし、2023年は売上減の傾向にあります。
学習塾の市場規模のポイントは、
- 少子化は加速し、塾に通わせる家庭とそうでない家庭が2極化
- 売上規模は前年比マイナス傾向
の2点です。
少子化は確実に進み、業界全体は緩やかな下降傾向にあると言えます。
塾業界の売上規模は、前年比マイナス傾向(経産省特定サービス産業動態調査統計)
塾業界の売上規模は、2021年は前年比109.1%、2022年は100.6%増と、前年比プラスの傾向にありました。
しかし、2023年に入り、各月とも前年同月を下回る月が増え、最終的な売上高は前年比97.9%と、前年を下回る結果となりました。
この統計は、経産省の「特定サービス産業動態統計調査」で、集計対象は予備校などの各種学校(学校教育法による学校教育に類する教育を行う事業所)や、社会通信教育 (小中高校生等向けの通信教育を含む。)、家庭教師の分野は含みませんが、概ね学習塾業界の動向を掴むことができます。
これは、塾業界の競争の激しさを表すデータでもあります。
例えば、1つのエリアで見てみましょう。
生徒が集まるA塾と集まらないB塾、現状維持のC塾の3パターンに分けられるとします。
A塾は売上増、B塾は売上減、C塾は売上は前年と変わらずとなります。
学習塾業界全体の売上が減少傾向にあるとはいえ、A塾が一人勝ちの状態(C塾も若干アップの可能性はある)の可能性が高いのです。
強い塾はより多くの生徒を集めて売上を伸ばしますが、生徒が集められない塾は先細りになってしまいます。
以前と比べてより弱肉強食の世界へと突入しているのです。
塾に通う生徒数が減少し続ければ、受講単価を上げなければ前年売上を上回れない状況です。
少子化時代でも堅調に成長してきた塾業界ですが、今後はより付加価値の高い、受講単価が高いコースを提供できるかどうかが、少子化時代の成長を占うようになってきています。
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2023年度の塾業界の市場動向をまとめると
経産省「特定サービス産業動態統計調査」をベースに学習塾業界を見通すと、以下の状況が見えてきます。
- 少子化×不景気で市場縮小の局面となり二極化が明確になりつつある
- 2024年2月の確報によれば、受講生数は前年同月比3.5%減の1,174,829人となった
- 当月の売上高は前年同月比0.1%減の43,514百万円となった。
受講生数は、前年同月比で13か月連続減となっており、売上確保のためには受講生単価を
上げるしかない状況が続いています。
このように少子化と不景気でやや減少傾向にあるのではないかと思われます。
これは塾業界というよりも、日本経済全体の傾向と連動しているとも考えられます。
日経平均株価はバブル以降最高値を記録しているものの、実際の経済状況とは乖離があると感じている方がほとんどではないでしょうか。
さらに先の動向については、2024年の速報値を考慮して考える必要があると思われます。
塾は学校授業を補完する大切な役割
以前はいい高校、いい大学に入るために必要だった学習塾。
しかし、年々ニーズが多様化し、学校の授業を補完する大切な役割を担うようになりました。
高度な教育を行うだけでなく、わかりやすく、楽しく、やる気を引き起こさせるのも塾の使命となったのです。
学校の授業を補完する役割を持つようになったのは、
- 学習意欲の低下
- 教科書改訂の影響
- 思考力や判断力が求められる入試へ変化
の3つも挙げられます。
これらの相乗効果により、塾へのニーズはより強いものになっているのです。
学習意欲の低下
長引くコロナ禍が、どのように子ども達の学習意欲に影響を与えたのかについて、2022年に東京大学が調査した結果があります。
全国の小学1年生~高校3年生を対象に、2019年~2021年までの3年間、コロナ禍における子どもの生活と学びを調査した結果、下記のような傾向が見受けられました。
・勉強しようという気持ちがわかない、という子どもは、2019年は全体の49.1%、2020年
は50.7%、2021年は54.3%、とコロナ禍の3年間で増加。
・コロナ禍の3年間で、学習意欲が向上した子どもは11.2%、低下した子どもは25.8%。
・学習意欲が低下した子どもほど、「上手な勉強の仕方がわからなくなった」「授業が楽しく
なくなった」と回答する割合が高い。
コロナ禍の学校で学習意欲が低下した子どもに、学習習慣をつけさせ、成績を上げることが
できる学習塾の役割は高まっていると言えます。
2021年の教科書改訂で大変化!特に英語は難化傾向で学校は新教科書対応で精一杯
2021年春に中学生の教科書が改訂されました。
特に英語は、質・量ともに難化しています。
旧学習指導要領では、中学校までに学習する英単語数は1,200語でしたが、新学習指導要領では、約2倍の2,400語ほどに倍増しています。
文法事項も、以前は中1の一年間で学んだものが1学期で出現するなど、学校も塾も教科書への対応で精一杯の状況です。
中1一学期の英語の中間テストと言えば、以前は90点をとっても当たり前の時代でしたが、現在は60点がやっと、30点以下の生徒も圧倒的に増えたとも言われています。
大学受験まで見据えると英語は最重要科目。
中1一学期で英語嫌いが増えるようでは困ります。
早期に学習塾に通う必要性が高まっていると言えるでしょう。
思考力や判断力を問う入試の変化は?基本事項の早期定着がカギ(塾の役割増)
ここ数年、国語はもちろん、他教科でも記述の問題が多く出題されるようになりました。
2021年からは大学入試が変更されたことを受け、高校以下でも入試の問題、さらに定期テストの問題が変わってきています。
全国の高校入試問題の傾向として、下記の点が挙げられます。
・「思考力・判断力・表現力」を問う問題の増加
・問題の長文化
・複数資料を読み込ませる問題
・多様な視点と技能の組み合わせ
特に「長文化」の傾向が強くなっています。
「あなたならどう考えますか?」という生徒の主体性を問う記述式の問題が増えているからです。
そのために場面設定をし、場面設定をするために問題が長文化し、複数資料を提示し、多様な視点や意見を織り交ぜる必要性があるからです。
これら難易度の高い問題を解けるようにするには、基本事項の早期定着がカギになります。
実践演習を積んで、生徒自らが一人で解けるようにすると考えると、より早く基本事項を定着させ、実践に入らなければなりません。
>>自塾の生徒の成績がなかなか上がらない!原因の特定と改善方法とは
このまま少子高齢化が進むと生徒の奪い合いが激化
市場規模は徐々に増加していますが、少子高齢化の進行は生徒の奪い合い激化に直結します。
生徒が集められれば、自ずと売上を上げられるでしょう。
しかし、その生徒集めが問題なのです。
母数が激減した状況で生徒を集めるには、他塾に勝たなければなりません。
そのポイントは、
- 付加価値の高いサービス
- 質が悪いと淘汰される
- 先生の奪い合いに繋がる恐れも
の3つです。
他にも問題はありますが、この3つにいかに対応するかが塾の生き残りのカギを握ると言えます。
付加価値の高いサービスが生き残りの鍵
生徒の成績だけでなく、生徒、保護者の満足度を上げる動きはこれからの塾に必須です。
そのポイントとなるのが、付加価値の高いサービスをいかに提供するかでしょう。
塾は成績効果を与えるのが使命ですが、そのためにいかにサービスを充実させるかが勝負の分かれ目です。
月謝には、日々の授業と教室や成績の管理費が含まれます。
授業はわかりやすく、楽しく、面白く。
教室は常に美しく、成績管理は完璧に把握する。
これは当たり前なのです。
これ以外に、
- 自習席の活用ができる
- いつでも質問ができる
- 学校や家での悩みを聞いてくれる
など、生徒や保護者がよりよく学力向上に迎える環境を整えなければなりません。
特に自習席はとてもニーズが高いです。
教室の規模にもよりますが、希望者が利用できるよう工夫をしましょう。
ただし、自習席は諸刃の剣ともなりえます。
自習にきた生徒が騒がしくて周りが集中できないと、かえって悪評が広がってしまうでしょう。
現場の講師に自習の管理も徹底させ、静粛な環境を提供できなけば、逆効果になってしまいます。
これ以外にも、様々な部分で付加価値の高いサービスはつけられるので、オリジナリティのあるサービスを提供していきましょう。
質の低い塾は淘汰される恐れが高い
競争が激化すると、質の低い塾は淘汰されていきます。
塾に求められる質とは、やはり成績向上です。
成績が上がらない塾は見切りをつけられ、保護者は他の塾を選ぶでしょう。
この質をいかに上げるかが生き残りのカギを握ります。
しかし、成績を上げるという目標は漠然としているため、これを実現するために何をするかが大切です。
例えば、
- 静寂で活気のある集中できる勉強空間を作る
- 生徒が一人でできるまで、徹底的に補習、自宅学習指示などを出す
- 1回教えるだけのカリキュラムから反復させるカリキュラムにする
など、成績を上げるために必要なことをしなければなりません。
これを講師が優しく、明るく、楽しく行うこと。
つまり、生徒を引っ張っていかなければならないのです。
講師は教室では子供たちのリーダー。
リーダーの姿勢が子供たちの取り組みを変えます。
そのため、講師自身がテスト期間も含めて、健康で現場に特化できる環境も質を上げるために必要と言えるでしょう。
少子化は先生数の減少に直結!先生の奪い合いも激化する可能性も
少子化が進むと、塾業界の正社員数が減るだけでなく、学生講師の数も減少します。
文科省の「学校基本統計」によると、現在約110万人ほどいる18歳人口は減少し続け、2032年には約98万人になり、2040年には約88万人まで減少すると予測されています。
既に2022年度の出生数が80万人を割っていますので、文科省の予測より速い推移で減少していくと思われます。
これにより、それぞれの塾で優秀な人材の確保が難しくなるでしょう。
人が勝負の分かれ目となる塾業界。
少子化の影響は、今後さらに加速していきます。
生徒の母数が減るだけでなく、大学生が減り、講師が減るのです。
それに伴い、学習塾を働き場に選ぶ人材は減少すると言えるでしょう。
加えて、「優秀」となればかなり厳しいことが予想されます。
いい先生の確保には、それなりの待遇が必要となるのです。
先生の確保ができたら、長く勤めてもらう努力も必要になります。
講師はこれまで以上に塾の財産としての価値が高まるため、他塾との講師確保競争に打ち勝ち、安定した体制を整えましょう。
まとめ
少子化が問題となっていても、1人あたりの教育費は増え、市場規模が徐々に伸びている塾業界。必要になるのは、生徒をいかに集めるかです。
生徒募集を勝ち取るためには、
- 塾の役割を知り、使命を全うする
- 学校の補完を行える体制を整える
- 付加価値であるサービス、授業の質を高める
- 激化する生徒、講師獲得競争に勝ち抜く
の3つがポイントになります。
さらに、今後も競争が激化する塾業界で生き抜いていくためには、
- 時代の変化を見据えた指導ができる体制を作る
- 生徒が減っても利益を出せる状態を作る
- 塾の役割を実感した親へのアプローチ
の3つです。
AI、ロボット、デジタル化、人口減等、時代の変化を見据えた進路指導が重要。
今までアナログ思考の強かった塾業界も、新型コロナの影響を受け、IT化が余儀なくされています。これまでは大手を中心にIT化が推し進められてきましたが、新型コロナでその流れが一気に速まりました。
そしてこれからの社会は、労働人口の減少に伴い、
- AI、ロボットの活用
- デジタル化への対応
- BCP(事業継続計画)の充実
など、時代の変化に合わせて進化をしなければなりません。
加えて、学習内容の増加、難化への対応も必要です。
やるべきことが多くなり、その難易度が高まる塾の仕事。
しかし、希望は大手も同様の対応をしなければならない点です。
企業規模が大きくなるほど、変化への対応は難しくなります。
逆に規模が小さいほど、あらゆる点で変化に対応させやすいです。
時代の変化とともに、大手だからかつ時代も終わりを告げました。
これからは知恵を使い、時代の流れに乗った者が勝つ時代と言えるでしょう。
少子化で生徒数が減っても利益が出る筋肉質な教室づくりを。
少子化に伴い、各教室の生徒数は徐々に落ち込んでいくと予想されます。
入塾時期も、3月から4月、4月から夏と徐々に遅くなっていく可能性もあるでしょう。
このような状況下で、過去との比較をしても焦りを生むだけです。
現代社会の状況を踏まえ、冷静に対処、対策を考えましょう。
最も重要なのは、生徒数が減っても利益が出る筋肉質な体系を整えることです。
生徒数が減っても利益を出すには、大きく2つの方法があります。
1つ目は生徒単価を上げる。
単価を上げると入塾率が下がる恐れもあるため、質やサービスの充実は避けては通れません。
2つ目はコストダウン。
賃料の引き下げや教材作成の内製化、ASP導入による業務の簡素化を図り社員の負担や人件費を削減しましょう。
特に働き方改革が叫ばれる現代では、労働環境の整備は必須です。
これまで以上に経営者の手腕が問われる時代に突入するため、あらゆる手段を講じて利益を生み出す環境を整えましょう。
コロナ休校時に苦しんだのは、共働きの保護者。家庭で勉強まで面倒見れない。塾の役割を親も実感。
新型コロナによる緊急事態宣言発令で、保護者の多くは塾の必要性を実感しています。
学校にも行けない、塾にも行けない。
このような環境下で、家庭で子供の勉強が見れない保護者が多くいたのです。
特に共働きの家庭では、会社での変化に対応するだけで保護者も大変でした。
慣れない中で子供の勉強まで面倒が見れないというのが本音でしょう。
現在では中学生でも教科内容が難しくなっています。
親世代が履修していなかった内容を子供が履修しているのも、子供の勉強の面倒が見れない理由の1つでしょう。
これにより、塾の役割、必要性を保護者が実感したのです。
「勉強はやる気次第、1人でもできる」の時代から「塾で勉強する」時代へ。
だからこそ、塾選びはこれまでよりずっとシビアになります。
ニーズが高まった今こそ、保護者の心をつかむサービス提供、質の確保が塾には必要なのです。
このように、市場規模の拡大に加え、2019年から続く新型コロナの影響もあり、塾業界は大きな変革期に突入しています。
ニーズが強まる中で、これまでの経営方法を大きく変えなければ生き残れない時代に突入したと言えるでしょう。
経営者として、より多くの情報を集め、他塾より先に自塾に変化をもたらす。
これが差別化に繋がるとともに、利益の確保、つまり、激化する塾業界での生き残りへと繋がるのです。
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