生徒数増減を左右するもの

コラム

全国様々な学習塾経営者の方とお会いし、お手伝いさせていただきましたが、生徒数が増えたり減ったりするときには、必ず共通した特徴があることに気づかされます。その中から重要だと思う3つのことをご紹介します。

「誰」が入塾してくるかが大事

教室の立地が大事とか、近隣学校に合った指導が大事とか、教室環境や教務についてはみなさん細心の注意を払って運営されています。でも「誰」を入塾させるかに全力を注がれている方はあまり多くなく、そこに注目して経営されている塾ほど、生徒が集まっていることがよくあります。

各中学校の成績上位者が入塾してくれればありがたい、というのはよく聞きますが、重要なことは成績上位者が育つ家庭環境を上位にそろえることにあります。偉そうで嫌な話なので普通の人はこんな話をしないのですが、日本は格差社会であるという厳然たる事実を前提に考えないといけません。そこに背を向けると、「保護者がなってない」「生徒より保護者教育が必要だ」というよくある不満に直面し、思ったより生徒が増えないことにつながります。その不満の根拠にある保護者像とは、保護者層特有の価値観にあります。別に無理して大学に行かせようとは思わないし、本人が大学に行きたいと言えばレベルにあったところに行けばいいとか、本人が行きたくないのであれば、学歴が全てとも思えないので他の道を選んでくれてもいい、という家庭が集まっているとも言えます。

松岡亮二著「教育格差」(ちくま新書)には、教育格差はいつの時代にもあり、保護者の階層、住んでいる地域、保護者の学歴により子ども達の学力に格差が生じていることを、様々な統計データを駆使しながら科学的に詳しく紹介されています。一例を挙げると、1980年代後半から90年代に生まれた30代の男性がいるとします。この人のお父さんが大卒であれば、この人は80%の確率で大卒となります。一方、お父さんが非大卒だと、この人は35%の確率で大卒となります。つまり、生まれたときに父が大卒か非大卒かで子どもが大卒になる割合が大きく変わることになります。また、住む地域も、大卒の大人ばかりに囲まれて育つ子どもと、そうでない子どもとの間にも学力格差が生じています。両親とも大卒の家庭で育つ子どもは、小学校入学前に様々な習い事をしますが、小学校入学時の学力は小4時の学力と関係しており、その時点で勉強ができるできないの格差は、中1まで維持されることがわかっています。成績が上位であることは子どもの努力の賜物でもあるけれど、それ以上に「恵まれた家庭、教育に理解のある家庭」で育った影響が大きいのです。

小学生の生徒数が突然激増した塾があります。1教室の個人塾ですが、たまたま算数オリンピック全国トップの小学生が入塾したところ、翌年からどんどん成績上位の小学生が集まり出し、小学生クラスが一杯になっています。たまたま成績上位層が入塾したに過ぎないのですが、その層と価値観が共通する保護者層が集まることで、大学進学は当たり前、しかもトップ大学に行かせたいという空気が教室に蔓延し、「あの塾は頭のいい子が集まっている」という評判が地域に知れ渡り、口コミで上位層家庭の順調な集客が生まれます。また、最初から全国的に有名な高校だけにターゲットを絞り、その高校の生徒が入塾するまで校門配布を続けた塾も生徒を大いに集めています。

このように「誰」が入塾してくるかが生徒数を左右するという視点を持つことは、安定した成長を持続的に維持されている塾に共通した特徴です。

タイトルとURLをコピーしました