成績を上げるには教え込むのではなく、生徒が主体的に学ぶ方が良いことは周知の事実です。夢や目標を持つ生徒は主体的に学べますが、そうでない生徒はどうすれば主体的になるのでしょうか。
まなびとまねび
学ぶの語源は「真似ぶ」と言われていますが、本質的な意味は少し違うようです。すなわち、「学ぶ」は「医学を学ぶ」のように、夢や目標、憧れの人の存在があり、それが動機となって学ぶことを意味します。尊敬される先生が生徒を慈しみながら教えることが中心ですし、憧れの夢や目標を生徒に持たせないといけません。一方、「真似ぶ」では、仲間や先輩がやっていることを見て真似をします。「師匠の背中を見て学べ」と言いますが、「教える」ということが前提にありません。誰から言われて真似るわけではないので、生徒の学ぶ姿勢は最初から主体的です。何事も主体的でなければ身につかないことを、「真似び」を通して先人はよく知っていたのです。
入江塾に学ぶ主体的な学び
1986年まで、大阪に「入江塾」という学習塾がありました。当時、東大合格に圧倒的実績を誇る灘高の募集人員55名の内、入江塾から30名の合格者を輩出した伝説の学習塾です。「伝説の入江塾は、何を教えたか」(祥伝社)には、入江塾長による生徒の主体性を育む指導が詳しく紹介されています。入江氏はまず「中学の勉強も学問研究と心得よ」と説き、与えて理解させるだけでは楽しみが沸いてこないと主張します。その実践として「グループ学習」を勧めています。例えば、英語の前置詞の授業では、あるグループはinとon、別のグループはforとfrom担当の3~4人ずつに分け、辞書からあらゆる文例を集めさせ、そこから導き出される法則を一定期間後にグループで発表させるというものです。数学の文章題の授業でも、参考書や問題集から様々な事例を集めさせ、出題パターンを分析し、各グループオリジナルの文章題を作成します。そうして作成した文章題に解答できたグループが勝ちです。当然、英語でも数学でも、作成グループは「解説」できなければいけませんから、問題に込めた本質的な問いを理解しないと解説できません。一つの単元の様々な問題事例を集めることは「真似び」にもつながります。また、問題作成者の視点で考えるようになりますから、試験本番で初見の問題に出くわしても対応できる力が身につくのです。
学びは計画性とは違う
脳科学者の茂木健一郎氏は、「プロフェッショナルたちの脳活用法」(NHK生活人新書)の中で、「近代の脳科学の最大の前進の1つは、“創造性”は学びと非常に近いということが分かってきたことです。ですから、人間の学習能力を最大限に生かすためには、理想的には何かを生み出すかのように学ぶことが大切です。創造に近い学びをやろうとすると、当然“計画性”からは外れてきます。」とし、「学校で多くの子供たちが“勉強はつまらない”と感じているのは、ひょっとしたらすべてが整理された後の、いわば死んだ体系になっているものから学ぼうとするからではないか。」と主張しています。
真似から始めた基本の蓄積があるからこそ、本番での突破力につながります。かつて歌舞伎役者の中村勘三郎氏は「型があるから型破り。型が無ければ、それは形無し。」との名言を残しています。学力向上には、入江塾のような研究的手法で基本の型を真似びながら主体的に取り組ませ、思考力が問われる型破りな入試問題への対応力を磨くことが重要です。
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