国立青少年教育振興機構の調査(2015年)では、日本の高校生の72.5%が「自分はダメな人間だと思うことがある」と回答し、世界と比べ、日本の子ども達は自己肯定感が低いことが指摘されました。
また、文科省全国学力テスト調査結果(2018年)によると、自己肯定感の高い子どもの方が学力が高い傾向にあることが示されており、子ども達を褒めて自己肯定感を高めることが学力向上につながると考えられています。
自己肯定感を傷つけないよう、褒める教育が盛んになっていますが、自己肯定感は高めないといけないのでしょうか。
叱らない先生への不満
2016年7月の朝日新聞に「なぜ先生は叱ってくれないの?」というテーマで14歳の中学生が投稿し、話題になりました。
「授業中クラスメートが騒いでいた。先生がなだめるように言った。『ほら、おしゃべりはやめようね!』まるで小学校低学年への対応だと私は思った。もちろん騒いでいた生徒が一番悪いのだが、それをしっかり叱らない先生にも問題があるのではないかと思う。・・・私はそういう先生が嫌いだ。多少やりすぎと言われても、生徒を第一に考え、本気で怒り、叱ってほしい。・・・ただただ、何が悪いことなのか先生に教えてほしいのだ。先生、私たちを本気で叱って下さい。」という投稿です。
子どもを傷つけないよう優しい表現で生徒指導をする先生の気持ちもわかりますが、自分の判断能力がどれだけ先生に近づけたかで成長を実感したい生徒にとっては、優しく叱るのも、それが不相応に甘いと自尊心を傷つけ、自己肯定感を損なうのでしょう。
自己肯定するふりをする子ども
心理学者の元永拓郎教授は、自己肯定感を特集する雑誌の中で次のように述べています。
「そもそも、自己肯定感が大切だよというメッセージを大人が子どもに与えるほど、子どもは自己肯定するふりをして大人を喜ばすことになりかねない。自己肯定感にまなざしが集まりすぎる環境では、自己肯定感は逆にしぼんでいく、または自己肯定のふりが上手になるということに気をつける必要があろう。もっとも、自己肯定のふりをしていると自覚できていればよいが、勝手なストーリーができあがりそれが進行し、自分がすばらしいと完結した自己愛が育まれては、それは教育がめざすことではないであろう」(「児童心理」2014年6月号)。元永教授は自身の学生時代を振り返りながら、自己肯定しない学生時代は苦しかったと述べています。自分を肯定してはだめだと思いながらも、自分が認められる瞬間は嬉しく、そんなことを繰り返しながら自己肯定の感覚を紡いでいたと述懐しています。
自己肯定感が高いと成績が良いという文科省の調査は、因果関係が逆に思えます。
成績が良いから自己肯定感が高いのではないでしょうか。
自己肯定感が高まっていない子ども達に褒めてばかりいると、低い現状に満足してしまわないでしょうか。自己肯定感が低いことは悪いことばかりではありません。
一流スポーツ選手のインタビューでも「自分はまだまだだと思います」とコメントされることが多いのです。
むしろ、自分はダメな人間だと思うことこそが高みを目指す向上心につながります。
シェイクスピアの言葉にもあるように、「愚か者は自身を賢者だと思い込むが、賢者は自身が愚か者であることを知っている」と思いたいものです。
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