各国の首脳・経営者・専門家らが集まり、世界が直面する課題を解決する世界経済フォーラム「ダボス会議」。
2021年8月の開催予定はコロナにより中止となりましたが、テーマは「グレート・リセット」でした。
ダボス会議の創設者クラウス・シュワブ会長は、コロナで露呈した資本主義の限界を指摘し、アフターコロナへ向け新たな資本主義社会を再構築(リセット)する必要があることを指摘しました。
今後はイノベーションを起こす起業家精神や新しいものを創造する力を持った人材が求められる「才能主義」(Talentism)の時代になると主張しています。
三方よし
シュワブ会長は、新たな資本主義へのグレート・リセットとして、日本の「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)の精神に注目しています。
「三方よし」の精神は、江戸時代の滋賀県で活躍した中村治兵衛という近江商人の教えが原点と言われています。
中村治兵衛の残した家訓にも「他国へ行商する際、すべて自分のことのみ考えずに、その国のすべての人々を大切にして、私利を貪ってはならない。」と記されています。
商いは取引をする当事者双方(売り手・買い手)のみならず、取引自体が社会(世間)をも利することを求めています。
持続可能な開発を目指すSDGsが世界の潮流にある今、日本の近江商人の「三方よし」の精神が、新たな資本主義再構築へのヒントになるのでしょう。
ではなぜ、近江の地で「三方よし」の精神が生まれたのでしょうか?
寺子屋教育
「近江商人の魂を育てた寺子屋」(中野正堂著)には、地元の寺子屋が近江商人の精神を育んだことが詳しく記されています。
近江商人発祥の地は、滋賀県の五個荘区ですが、五個荘区には多くの寺子屋がありました。
寺子屋1校当たりの平均生徒数では、滋賀県全体の平均が48人であるのに対し、五個荘区は110人だったそうです。
教育の特徴は「基礎基本の徹底」と「心を育む教育」にありました。
読み・書き・そろばんの基礎基本だけでなく、「算術」を教えていたのが特徴です。
算術を教えている寺子屋の比率は、全国的には21%でしたが、五個荘地域では70%と、かなり高かったようです。
テストも「流水に浮かぶ木の流れる距離」を求める問題や、「味噌づくりの原価計算」、直角三角形の中に描かれた大中小の円の直径を求める問題等、高度な算術に興味を持つ子どもにも対応できる教育力を寺子屋が備えていました。
教科書も全国標準のものとは違い、師匠は表紙に生徒の名前を書きながら、一人ひとりの学習課題を思い浮かべ、それに応じた教科書を作成していました。
今で言う「個別最適化」です。
一方、「心を育む教育」にも力を入れています。
他の教科書には出てこない儒教の「仁義礼智信の五常」の教えを手作りで作成し、地域の氏神様や仏様を敬うよう厳しく躾けていました。
これが後に「世間よし」につながっていきます。
昨年4月、伊藤忠商事は近江商人であった創業者の伊藤忠兵衛氏の原点に戻り、経営理念を「三方よし」に変更しました。
新しい時代に求められる才能や新しいものを創造する力が、日本の近江商人の「三方よし」の教えに求められています。
そして、その近江商人に大きな影響を与えたのが、当時の学習塾にあたる「寺子屋」なのです。
近江商人の商売十訓の一つに「売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる」というものがあります。
入塾後、卒業後にどんな財産を子ども達に残していけるか、新たな時代に通用する教育という作品を創り続けていきたいものです。
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