これまでの集団指導から個別指導へとニーズは移り、現在はオンライン指導が注目され始めています。
総務省の「経済構造実態調査」によると、インターネットを活用した指導方法を取り入れている学習塾の事業所数は、
2019年 14,709(全事業所数の27.9%)
2020年 22,291(全事業所数の42.8%)
と急増しています。既存事業所数の半数程がインターネットを使ったオンライン指導を取り入れています。
対面指導にこだわるのもいいですが、Z世代の生徒の価値観は、タイパやコスパを求める風潮等、昔と大きく変わってきています。
また、少子化に伴う入試競争倍率の低下、推薦入試の増加、コロナ後の世帯収入の減少等、塾業界を取り巻く環境はより一層厳しさを増しています。
インターネットをフル活用した塾経営は、今後の発展の鍵を握る可能性を秘めているのです。
そこで今回は、オンライン塾の運営についてご紹介します。
オンライン塾とは
インターネットを介し、授業や質問対応をする塾がオンライン塾です。オンライン塾には大きく分けて、次の2種類があります。
- 一般の塾が取り入れる場合
- オンライン専門の塾の場合
対面授業を行っている塾がサービスの一部として提供するオンライン塾と、インターネット上でのみ授業を提供するオンライン専門塾があります。
どちらもメリット、デメリットがあるため、塾の理念や今後の戦略、指導方針に合うかどうか、しっかり見極めて採用を考えないといけません。
ここでは、それぞれの特徴についてご紹介します。
一般の塾が取り入れる場合とオンライン専門の塾が存在
一般の塾が取り入れるケースは、色々とあります。
- オンライン授業と対面型の個別授業とのハイブリッド型
- オンライン授業と対面型の集団授業のハイブリッド型
- オンライン授業のみ
- 家庭学習指導や質問対応のみオンラインを活用
など、様々な形態があります。
授業だけ考えれば、一般の塾の方が、既存の先生や授業ノウハウを活かせる分有利と言えます。
しかしオンライン授業では、授業以外の要素が重要になります。
その一つが、「集中力やモチベーションの維持」です。
もちろん、対面授業であっても生徒の集中力やモチベーションの維持は重要です。しかし、オンライン授業では、PC画面という制約のある空間での生徒指導になります。
生徒はPCやタブレットの画面を長時間見続けなければならず、飽きさせない工夫や集中力を維持する空気づくり等、対面授業とは違うノウハウが新たに必要になります。
また、先生からすれば、テキストを見ている様子や生徒がノートをとっている手元が見えず、画面の生徒の表情から理解度や授業態度を推測するしかありません。
従って、今ある授業を単にインターネットで配信する、というだけでは失敗する可能性が高まります。
対面授業主体の塾がオンライン授業を取り入れる場合、対面授業とオンライン授業のすみ分けを戦略的にしっかり考えないといけません。
先進的な塾は、反転学習にオンライン授業を取り入れています。
家庭では、インターネット配信された録画授業を視聴し、塾に来て対面授業を受ける時には、演習中心にしたり、他の生徒と競わせたり、学習計画作成や進捗アドバイスを取り入れたりして、対面授業とオンライン授業のすみ分けをしています。
一方、オンライン専門の塾を開業する場合、一般の塾や学校で講師経験を積んでおくことが必須となります。
科目指導の専門知識や、授業をしながら生徒の心理状態を感じ取る能力、メリハリのある授業展開、生徒が集中力を失った時を感じ取り、適度にユーモアや叱咤激励をして空気を引き締める能力等、高い経験値が必要になります。
対面授業とオンライン授業のハイブリッド型、オンライン専門型とも共通しているメリットは、顧客層の拡大を狙えることにあります。
距離的に通塾困難で通えなかった生徒を募集することができます。海外に住む日本人も対象になるでしょう。最近激増している不登校の子も対象になってきます。
少子化で地域に住む子どもが少なくなってきても、指導する先生を多く確保できなくなっても、生き残る塾経営が可能になります。
家賃や人件費、宣伝広告費がかからなくなりますので、低価格で利益を出せるようにもなります。
将来を考えれば、早期にオンライン塾のノウハウを構築しておく必要があります。
オンライン塾は低コストでも運営可能
オンライン塾は低コストで運営が可能です。
塾の3大コストは、地代家賃、広告宣伝費、人件費、ですが、物理的な空間を持たないオンライン塾では、どれもコストダウンが可能です。
その理由は、塾にとって一番重要な「授業」にコストがかからなくなるからです。
オンライン塾で授業配信するために利用するツールとしては、主に下記2点が挙げられます。
- Zoomなど無料で使えるツール
- YouTubeなどのオンデマンド授業
お金をかけずに事業の幅、サービスの種類を増やせられるため、ぜひ参考にしてください。
Zoomなどを使って個別・集団授業も実現可能
ZoomやSkypeなどのツールを使った学習指導は、ここ数年で大きく増えています。
双方向でコミュニケーションができる点を活かし、質問対応ツールとして活用する場合が多く、
- 大学生を常駐させて質問対応する
- 講師がスタンバイして、依頼があれば対応する。
という形がよく見られるようになってきています。
教室を用意する必要がなく、先生は自宅からでも机一つで配信可能です。
先生からすれば「リモートワーク」とも言えますので、働き方改革への取り組みにもなりますし、大学生の雇用確保にもつながります。
特に人手が必要な講習会時でも、実家に帰省している大学生に対応してもらうことも可能です。
授業や質問対応をオンラインで実施する場合、先生と生徒でテキストや問題集を予め共有しておくことが大切です。
生徒が質問箇所を先生に伝える際、テキストをカメラに近づけて「ここ」と示すことが多いですが、ピントがずれていたり、背景をぼかす機能が働いて映りにくくなったりします。
何より、質問箇所を確認する時間と労力がもったいないと言えます。
また、力のある先生の居場所が問題になりませんので、「その人にしかできない」指導を多くの生徒に受けてもらうことが可能になります。
例えば、東大合格指導に実績がある先生に、オンラインで東大合格可能性や東大合格に必要な勉強法、生活リズムの作り方、模試判定の考え方等の授業を、多くの生徒に受講してもらうのもいいでしょう。
あるいは、塾の卒業生で医者として働いている人にオンラインで登場してもらい、医学部を志望する生徒に医学の現場を紹介してもらうのもいいでしょう。
このように、Zoom等を利用する際には、「双方向コミュニケーション」という特性を最大限に活かすことが重要です。
双方向コミュニケーションの必要性が薄いのであれば、Zoom等よりも、次に紹介するYouTube等の方が向いています。
YouTubeなどを使えばオンデマンドの授業も実現
予め撮影した動画を多数の生徒に配信するのであれば、YouTube等の動画配信システムが最適です。
同じ学習単元や問題を生徒に指導する場合、次のような問題点が出てきます。
- 生徒が質問したい内容が同じ
- 生徒が苦手な単元に偏りがある
- 導入授業内容がいつも変わらない
上記の問題点があるにもかかわらず、いつもライブで何度も配信するのは大変です。
生徒側も、理解している単元や解けている問題を長々と見せられても、時間のムダになります。
このような場合は、ライブよりも録画授業の方が適しています。
一方、「この日この時」しか見られない授業には、ライブ配信が適しています。
例えば、志望校合格日の生徒インタビューや、志望校別の入試直前最新対策講座、定期テスト終了後の採点授業、理科実験等、ライブでないと価値が伝えられない授業の場合です。
そのようなライブ配信はイベント化し、不特定多数の生徒に参加してもらえれば、塾の集客にもつながります。
一方、YouTubeは保護者も閲覧できます。
共働きでなかなか保護者会に参加してもらえない保護者への説明会や、あまり話を聞くことができない塾長の講演、志望校の学校の先生による説明会等をオンラインで実施することで、保護者の意識改革や塾への満足度を高めることにもつながります。
塾は「サービスを受ける人(生徒)とお金を払う人(保護者)が違う」という特殊な業界ですので、このようなサービスを保護者に提供することは、長期継続してもらう上でも重要です。
自塾のよさを広げるコンテンツとなりえるため、導入のメリットは大きいと言えます。
オンライン塾のデメリット
メリットがたくさんあるオンライン塾ですが、当然ながらデメリットもあります。
特に大きなデメリットは、
- 生徒との距離が開きやすい
- モチベーションの維持が難しい
- オンラインで指導できる講師が限られる
の3つです。
これらへの対処を考えなければ、オンライン塾として成立させるのは難しいでしょう。
それぞれの問題点について、1つずつご紹介します。
生徒との距離が開きやすい
オンライン授業最大の欠点は、生徒とのコミュニケーションが取りにくい点です。
塾は、子どもに勉強を教えるだけの場所ではありません。
- 学校での出来事
- 趣味や特技、好きなことや嫌いなこと
- 将来の夢
- 抱えている様々な問題(親や友達との人間関係)の相談
など、コミュニケーションを取りながら勉強以外の情報も収集し、時には相談に乗りながら、悩みやストレスなく学習を続ける環境を作らなければなりません。
オンライン授業は一方通行になりがちです。
そのため、こうした生徒サイドからの発信をキャッチしづらくなります。
教室に生徒が来れば、個別に呼び出してコミュニケーションをしたり、悩み相談に乗ってあげられますが、特にオンラインで複数生徒が画面に映っている場合、個人の問題を打ち明けられる場にはなりません。
オンライン塾では、そのようなデメリットが生じやすいことを前提に、オンラインであっても生徒との距離を縮められるような配慮が必要です。
モチベーションの維持が難しい
教室に通っていれば、隣の席に座った生徒のノートを見て感動したり、部活で疲れていても圧倒的な集中力を発揮する生徒に出会ったり、様々な刺激を受ける機会が多くあります。
先生が特別なことをしなくても、教室の「場」がそのような刺激を与えてくれます。
一方、オンライン塾では、時間になれば顔だけ画面に表示される日々ですから、そのような刺激を受ける機会が圧倒的に少なくなります。
刺激を受けることが少なくなれば、先生がそのような場を用意しなければなりません。
ずっと授業ばかりしていてはモチベーションも高まりませんので、時には授業を中断し、時には改めて時間を設けてでも、授業以外の話をする場を設ける必要があります。
先生と生徒が1対1になる機会も少ないですから、1対1で生徒と対話できる機会を毎月用意した方がいいでしょう。1対1でないとなかなか本音を言わない生徒は多いのです。
また、通塾する必要がありませんので、授業の欠席や遅刻がしやすくなる可能性も高まります。
オンライン塾であっても、毎月の授業出欠や遅刻状況の保護者への報告が必要になります。
このように、教室に通っていれば普通にできたことができなくなることに注意を払い、できなくなることを補完する仕組みづくりが重要になります。
オンラインで指導できる講師が限られる
オンライン指導では、教室での対面指導とは違う能力が講師に求められます。
ずっと集中力を維持しながら画面に向かい続けるのは、大人でも難しいことです。
集中力を切らさない、飽きさせない工夫が講師に求められるのです。
YouTubeを見るとわかりますが、再生回数の多い講師の授業動画は、明るいキャラクター、メリハリのある声、うまくタイミングを掴んだ冗談、明るい服装、動画や音を取り入れた効果的な動画編集技術、が備わっています。
教室での授業であれば、他の生徒の面白い発言を利用したり、ホワイトボードから移動して歩き回ったり、体全体の動きでメリハリ感を出したりすることで、授業の強弱をつけることができます。
一方オンライン授業では、基本的に全てのことが講師だけの能力に求められるようになります。
特に、生徒の手元が見えないことが授業の難易度を上げます。
生徒がきちんとノートをとっているか、途中の計算式を書いているか、漢字を間違っていないか、わかったフリをしていないか、手元でスマホをいじっていないか等、見えないところを見る能力が求められます。
また、教室であれば、女子生徒の悩みは女子の先生に聞いてもらったり、担任以外の先生が生徒に声をかけてくれたり、他の先生の力を借りることもできますが、オンラインではできません。
明るく飽きさせない能力、メリハリのある話術、わかりやすい説明能力、生徒を惹き付ける人間力、面倒見の良さ等、様々な能力がオンライン講師に求められます。
そのような講師を確保するのは難しいですので、人材育成や研修によってカバーしなければなりません。
オンライン向けの講師能力が必要という前提で、オンライン塾を開業する覚悟が必要です。
対面式とオンライン式を組み合わせて付加価値を
対面授業にもオンライン授業にも、メリットとデメリットがあります。
すでに対面授業で運営している塾であれば、どちらか一方に絞るのではなく、両方組み合わせて他塾との差別化を図る方向を検討すべきです。
特に人材面の制約を両方のメリットで打ち消すことが重要です。
例えば、対面授業担当の先生が指導経験が浅い場合、オンライン授業の先生はベテランにするとか、対面授業の先生が男性であれば、オンライン授業は女性にするとか、対面授業の先生が真面目な先生であれば、オンラインはユーモアのある面白い先生にするとか、人材面の制約を打ち消すのです。
オンラインは地理的な距離や受講生数に制約がありませんので、そのような組み合わせが可能になります。
また、学力向上と家庭の授業料負担軽減を図ることも可能になります。
英語と数学の単科受講の生徒に複数科目受講を勧める際、理科や社会はオンライン指導にすることで割安な受講料を提案できます。成績向上や合格実績向上にもつながるでしょう。
授業形態そのものを変えることも可能になります。
前述したように、家庭では動画の授業、教室では演習中心の授業、といった「反転学習」で効率と理解度を高めることができます。
対面式とオンラインのコラボレーションは、うまく両立できれば、他塾を圧倒できるほど可能性のあるシステムと言えます。
まとめ
オンライン塾のメリットとデメリットを、対面式の塾と比較しながら可能性を検討してきました。
これまでは、成否を講師に委ねる属人的な傾向にありましたが、これからはネットを使っていかに効率的に指導ができるかがポイントになります。
オンラインは万全ではありません。
必ず、講師の力が必要になる部分があります。
双方の欠点を補う運用ができれば、他塾を圧倒できる可能性も秘めているのがネットを活用した指導方法です。
まだまだ発展途上のオンライン指導。
どのツールを利用するかだけでなく、様々なアイテムを組み合わせると新しいモノを生み出せる可能性も秘めています。
ぜひ、自塾の長所と短所を振り返り、ネットの活用で他塾と差別化できないか、検討してみてください。
学問に問題への解法があるように、企業で抱える課題や問題には、必ず解決策が存在します。
ネットをフル活用し、強い企業へと押し上げていきましょう。
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